朝日新聞社と明治大学が共催する「大岡信賞」の第五回には、現代詩作家の荒川洋治さんが受賞された。詳細は、朝日新聞2月21日(水)朝刊26面をご覧ください。
第二十八回大岡信研究会の報告(講師:四元康祐氏)
第二十八回大岡信研究会は、1月28日(日)、今回もズームと会場(代官山ヒルサイドサロン)の二元方式で、講師に詩人の四元康祐氏を迎え開催されました。同氏は、大岡信の幅広い仕事の中でも海外連詩に焦点を当て、自身の連詩経験―米国、ドイツをはじめとする長年の外国勤務時代や翻訳などで磨かれた英語力で、海外の詩人との連詩を日常的に実践している―その内容を写真や動画を駆使して具体的に生き生きと語りました。日本・中国・韓国の詩人による連詩、トルコのダムによる水没都市での連詩、コロナ禍でルーマニアの女性詩人の呼びかけで始まった世界中の詩人が参加したオンラインによる連詩、香港の大学での連詩、そして昨秋に参加したアイオワ大学での体験など、実に興味深く、また極めて喚起的な話が続きました。それぞれの連詩を実践する過程で、参加する各詩人の独自の背景や心理的環境、また実際的な場所、そして偶然も含めたさまざまな出来事などが契機となって、次々と詩的喚起力が生み出されることで、連詩が成立し続くことが具体的に感得できました。
アイオワ大学では各国からの詩人や作家が、それぞれ自分の仕事を自由にしながら、一つ屋根の下に3か月間共同生活しましたが、そこで精神の共振が生じることを語りました。それは、同氏が読んだニュージーランドの日本文学者のRoy Stars氏が心敬に関する研究で述べている-心敬にとっての連歌は、文学というより仏教的悟りへの道程Meditation in actionそのものだったと言います。座禅という孤独な作業を人々が集まって行うことで精神の共振が生じることが、連歌、連詩に通じる、そして詩を書き、読む行為そのものも禅的な精神の解放を実現するものではないか、そのことは、まさに大岡信の「うたげと孤心」に繋がるものであると語りました。
アイオワ大学では、寮の中庭に転がっていた紙コップに心を寄せた同氏のメールに、参加者たちがたちまち反応し、そうした反応が作品として纏められたエピソードなども、非常に面白く、刺激的でした。また、連詩のような詩の共同制作は、決して日本特有のものではなく、四元氏自身の体験からも、中近東やアジア、ヨーロッパなどの世界の各地に見られると語ったことも非常に印象的でした。時々、詩を朗読される四元氏の心地良い英語の響きを聞いていると、それぞれ母語の異なる詩人たちとの連詩に不可欠なコミュニケーション力を実感する思いでした。今回の大岡信研究会の参加者たちも、新しい窓が開けたような印象を持たれたことでしょう。
この講演内容は、今年末に発行される会誌「大岡信研究 第10号」に掲載されます。今回の会に参加された方はもとより、参加されなかった方も、是非ご期待ください。(越智淳子)
会誌「大岡信研究」第九号 発刊
大岡信研究会は会誌「大岡信研究」第九号を2023年12月20日に発行しました。
内容は、以下の通りです。
大岡信研究 2023 第九号 目次
二〇二三年の研究会の活動報告・・・・・西川敏晴(活動報告はこちらをクリックすればご覧になれます。)
大岡信の詩 「いつも夢に見る女」・・・・大岡信
いつも夢に見る女・・・・・・・・・・・藤井貞和
大岡信の詩 「彼女の薫る肉体」・・・・・大岡信
大岡信研究会
第二十五回 放心のかぜ―大岡信ノート・・・吉増剛造
第二十六回 データと言葉のあいだ・・・・西垣 通
第二十七回 大岡信さんの作法・・・・・・北川フラム
富士歌仙 第二巻 女正月の巻
連載 大岡信の「ノート」と「手帖」⑨
大岡信研究会では、毎年12月に会誌「大岡信研究」を発行しています。最新号の第九号を始め、会誌のバックナンバー購入を希望される方は、右欄のメニュの「お問い合わせ」から希望部数と宛先を明記してご連絡下さい。頒価1部1000円(送料当会負担)ですので、購入部数代金を郵便振替口座:大岡信研究会 00150-8-450238 までお振込みください。
なお会員には、毎年発行次第、無料で送付しています。この機会に是非、新規会員にお申込み下さい。
会員申し込みの詳細は、メニュの「入会の案内」をご覧下さい。
第二十八回大岡信研究会のお知らせ(終了しました)
大岡信が谷川俊太郎や茨木のり子など「櫂」の仲間と共に20世紀後半から始めた連詩の試みは、21世紀にはいっても衰えるどころか、広く海外にも伝わっています。私自身も、世界各地の詩人たちと連詩を巻き、その都度大岡さんの「うたげと孤心」の思想が言語や民族を超えて実践され、詩人たちの意識の深層を共振させるさまを目の当たりにしてきました。この会ではその実例を紹介しつつ、現代に生きる私たちにとっての連詩の意義について考えたいと思います。(四元康祐)
日時:2024年1月28日(日)14:00~15:30
開場受付:13:30~
形態:ズームおよび会場
会場:代官山ヒルサイドテラス(アネックスB棟2F クラブヒルサイドサロン)
講師:四元康祐(詩人)
演題: 「海を越えた連詩:21世紀篇」
会費:会員(無料)。会員以外の方は1000円。会場参加の場合はを会場でお支払いください。ズーム参加の場合は当日視聴が実現した上で、当日以降2月2日までに郵便振替口座00150-8-450238にお振込みください。
〇参加の申し込みは、会場参加の申し込みはこちらから
ズーム参加の申し込みこちらから のいずれかをクリックして2024年1月25日までにお申し込みください。なお、会場参加は、コロナ状況を鑑み20名に制限していますので、お早めにお申し込みください。
〇申し込みの方には、自動返信で受付完了のお知らせと、会場申し込みの方には会場住所が、ズーム申し込みの方には当日使用のズームのURLが、送付されますのでご確認ください。なお、自動返信がすぐにない場合は、自動返信が「迷惑メール」に分類されている可能性もありますので、念のためご確認ください。
講師紹介:四元康祐(よつもとやすひろ)詩人、1959年大阪府生まれ。2002年『世界中年会議』で山本健吉賞、2003年『噤みの午後』で萩原朔太郎賞、2012年『日本語の虜囚』で鮎川信夫賞。近著に『ダンテ、李白に会う―四元康祐翻訳集古典詩篇』、『ソングレイン』、『詩小説 鮸膠(にべ)』など。2023年8月から11月まで米国アイオワ大学の国際創作プログラムに参加。2022年4月から日本経済新聞日曜版にエッセイ「詩探しの旅」を連載中。
2024年度新規会員募集および会員継続のご案内
大岡信研究会の活動を支援し、研究会により参加しやすいように、また会員同士のさまざまな情報交換のためにも、是非とも、会員としてご参加ください。
大岡信研究会では毎年9月以降に、来年度の新規会員を募集しています。また現会員には継続をお願いしています。
2024年度の会期は2024年1月1日~12月31日)です。
会員には、一般会員、学生会員、賛助会員があります。
会員は、①年3回開催される大岡信研究会への参加費が無料になります。(現在ズームと会場で同時並行で開催していますので、遠隔地にお住まいの方もズームで参加できます。)②毎年末に発行される会誌「大岡信研究」が無料で郵送されます。③会員は、会誌に寄稿できます。但し、寄稿の採否は編集部が決定します。
学生会員は、30歳以下の学生とし、課程、学年を問わず30歳以下であれば学生の資格になります。
各会員の年会費は以下のとおりです。
年会費:一般5000円、学生2000円、賛助会員一口10000円(一口以上)
会員の申し込みには、郵便振込用紙に、会員の種類、氏名、住所、電話番号、Eメールアドレス(お持ちの方)、また学生会員で申し込まれる方は生年月日および学校・大学名・学科(専攻)を明記して、会費を下記の郵便口座にお振込み下さい。
郵便振替口座:00150-8-450238 大岡信研究会
前年の9月から12月20日までに翌年度からの新規会員の申し込みされた方には、その年に発行された会誌「大岡信研究」1冊を無料で差し上げます。
会費は年の途中での入会も同じです。会員名簿は事務局で厳正に管理します。会員証等は発行しません。
2024年度へ継続される会員は、2023年12月25日までに2024年度会費を下記の口座にお振込み、継続の手続きをおとり下さい。ご支援のご継続、真にありがとうございます。
郵便振替口座:00150-8-450238
第二十七回大岡信研究会(ズームと会場:講師:北川フラム氏)のお知らせ(終了しました)
大岡さんの著作では、大部の作家論でも、書評や断簡でも、一つひとつに発見するという構えがあり、作家との愛情をもった対話があります。そこには身近な家族、友人に限らず日常のあれやこれやに丁寧な関わりを持ち続けようとした強い意志が感じられます。対象への深い関心、対象とのやりとりが思考を柔軟に変えていくという、人間生活の初源の気持ちを当たり前のように生きた人、その深い孤絶と反骨の志が文学と美術にわたる膨大なコミュニケーションの織物を編んだように思えます。それが大岡さんの作法として私を鼓舞します。(北川フラム)
日時:2023年9月18日(月・祝)14:00~15:30
開場受付:13:30~
形態:ズームおよび会場
会場:代官山ヒルサイドテラス(アネックスB棟2F クラブヒルサイドサロン)
講師:北川フラム(アートディレクター、アートフロントギャラリー代表)
演題: 「大岡さんの作法」
会費:会員(無料)。会員以外の方は1000円。会場参加の場合はを会場でお支払いください。ズーム参加の場合は当日視聴が実現した上で、当日以降9月25日までに郵便振替口座00150-8-450238にお振込みください。
〇参加の申し込みは、会場参加の申し込みはこちらから
ズーム参加の申し込みこちらからをクリックして2023年9月15日までにお申し込みください。なお、会場参加は、コロナ状況を鑑み20名に制限していますので、お早めにお申し込みください。
〇申し込みの方には、自動返信で受付完了のお知らせと、会場申し込みの方には会場住所が、ズーム申し込みの方には、当日使用のズームのURLが送付されますのでご確認ください。なお、自動返信がすぐにない場合は、自動返信が「迷惑メール」に分類されている可能性もありますので、念のためご確認ください。
講師略歴:北川フラム氏:1946年新潟県高田市(現上越市)生まれ。東京芸術大学美術学部卒業。アートフロントギャラリー代表。主なプロデュースとして、ガウディブームの下地をつくった「アントニオ・ガウディ展」(1978-79)、全国80校で開催された「子どものための版画展」(1980-82)、全国194ヶ所38万人を動員し、アパルトヘイトに反対する動きを草の根的に展開した「アパルトヘイト否!国際美術展」(1988-90)、米軍基地跡地を文化の街に変えた「ファーレ立川アートプロジェクト」(1994)等。地域づくりの実践として、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」(2000~)、「瀬戸内国際芸術祭」(2010~)、「いちはらアート×ミックス」(2014,2021)「北アルプス国際芸術祭」(2017,2011)、「奥能登国際芸術祭」(2017,2021,2023)で総合ディレクターをつとめる。フランス、ポーランド、オーストラリアから勲章を受勲。2016年紫綬褒章、2017年度朝日賞、2018年度文化功労者。2019年度イーハトーブ賞他を受賞
第二十六回大岡信研究会報告「データと言葉のあいだ:西垣通氏(情報学者、東大名誉教授)」
第二十六回大岡信研究会は、情報学者で東京大学名誉教授の西垣通氏を迎え、前回と同じくズームと会場の並立で開催された。演題は「データと言葉のあいだ」。西垣氏の父は、詩人であり俳人でもあった西垣脩氏であり、大学の後輩でもあった大岡の芸術的資質を高く評価して明治大学に招くなど、深い交流があったという。父が亡くなった時の大岡の温かい人柄や、父の詩集の解説などに心を打たれ、氏も大岡と直接的な交流がはじまり、その後の仕事の上でも、恩人であったと冒頭に語った。
西垣氏が、日立の研究員等を経て、情報技術と文学のあいだを融合する学術的研究へと歩を進める中で、季刊誌『花神』第1号で大岡と対談したのをはじめ、『へるめす』への寄稿から『デジタル・ナルシス』(岩波書店)でサントリー学芸賞を受けるに至るまで、その仕事の背景には大岡の支えがあったと感謝の思いを吐露した。
講演は、AI(人口知能)の歴史や、AIによって生じる明と暗を、幅広い思想的見地から紹介した後、データ処理と創造活動という問題に移っていった。情報学者として芽生えた問題を考える上で、氏は、大岡の著書『肉眼の思想』の中のいくつかの論を考察し、大岡のことばを引きながら話を展開した。特に大岡が「肉体的なるものの復権」を主張したことや、「命名」という言語機能の回復を力説した箇所を紹介し、データの塊でしかないチャットGPTなどの機械的知性と、生命的価値を背景にした人間の芸術的創造との違いを中心に、大岡の詩「詩とは何か」にまで遡りながら、大岡の思考の営為を広く展望して語った。
AIで詩や俳句を作ることができるかと問われる現代において、肉体の復権を主張した大岡の思想は、本当の言語芸術を考える上で辿り直すべきものであり、この時代にこそ、大岡の仕事の意味が高まってくるであろうと感じた。まずは、『肉眼の思想』から読み直してみたいと思った。
(渡辺竜樹:大岡信研究会運営委員)
足利市で「吉増剛造展」ー大岡信に関する映像、第二十五回研究会講演の生原稿展示ー
2023年1月第二十五回大岡信研究会で講演された吉増剛造氏の展覧会が足利市のartsspace & cafe(代表:岩本圭司、造形家)が5月27日(土)から6月18日(日)まで開催されています。そこでは、第二十五回大岡信研究会での講演後、その内容をさらに12分の映像にまとめた映像作品、また、講演で使用した生原稿も展示されています。ふるってお出かけください。詳細は http://artspace-and-cafe.com をご覧ください。
ズームと会場による第二十六回大岡信研究会のお知らせ(終了しました)
大岡信は国際派の詩人だっただけでなく、広く科学技術文明と言語芸術の関係について思索する論客でもあった。講演者は、若い頃からその薫陶をうけ、コンピュータ研究者から文理融合の情報学者になったのである。本講演ではまず、大岡信をめぐる個人的な想い出やエピソードをのべる。さらにそれらを踏まえ、現在のAI(人工知能)とくに最近注目を集めているチャットGPTなどの生成型AIと、言語芸術との関連についてふれる。はたしてコンピュータは詩をつくれるのだろうか。(西垣 通)
日時:2023年5月28日(日)14:00~15:30
開場受付:13:30~
形態:ズームおよび会場
会場:代山ヒルサイドテラス(アネックスB棟2F クラブヒルサイドサロン)
講師:西垣 通(情報学者、東大名誉教授)
演題: 「データと言葉のあいだ」
会費:会員(無料)。会員以外の方は1000円を会場参加の場合は会場でお支払いください。ズーム参加の場合は当日視聴が実現した上で、当日以降6月2日までに郵便振替口座00150-8-450238にお振込みください。
〇参加の申し込みは、会場参加の申し込みはこちらから
ズーム参加の申し込みこちらからをクリックして2023年5月25日までにお申し込みください。なお、会場参加は、コロナ状況を鑑み20名に制限していますので、お早めにお申し込みください。
〇申し込みの方には、自動返信で受付完了のお知らせと、会場申し込みの方には会場住所、ズーム申し込みの方には、当日使用のズームのURLが送付されますので、ご確認ください。
講師略歴:西垣 通(にしがき とおる)氏
1948年、詩人西垣脩の長男として東京に生まれる。東京大学工学部卒、工学博士。日立製作所研究員、明治大学教授、東京大学社会科学研究所教授、東京大学大学院情報学環教授、東京経済大学教授を歴任。情報社会のはらむ諸問題を、文理にわたり幅広く考察している。近著として、『超デジタル世界』(岩波新書)、『新 基礎情報学』(NTT出版)、『AI原論』(講談社選書メチエ)など。『デジタル・ナルシス』(岩波書店)でサントリー学芸賞(芸術・文学部門、1991年)。
毎日新聞に「大岡信研究会」1月例会の記事が掲載されました
大岡信研究会1月例会について、『大岡信 架橋する詩人』(岩波新書)の著者である大井浩一さんの記事が、「核心にある「放心」の発見語る 吉増剛造さん講演」のタイトルで、毎日新聞2月6日の夕刊に掲載されました。
「初めに吉増さんは、4日前に86歳で死去した同世代の詩人、天沢退二郎さんによる「大岡信の口はいつもおおおと言おうととしてまるく開かれ」といった詩のような言葉で書かれた大岡評を紹介、若いころ「大岡さんに天沢が全身で反応することに、私たちは何か信号を見ていたかもしれない」と鎮魂をこめて話した」
(中略、以下、記事後半より引用)
「評論『うたげと孤心』(79年)で大岡が「うたげ」という言葉について「『掌ヲ打上(うちあげ)』の約」だという明治期の国語辞典の説を挙げていることに触れた。吉増さんは中原中也の詩「悲しき朝」の一行「われかにかくに手を拍(たた)く……」を連想したと述べ、大岡の「中原中也論」から、まさにこの一行を論じた部分を引用した。
「中原中也はこの一句によって(中略)一語一語の中における存在を、放心という一現象の中に拡散させてしまう」という一節で、吉増さんは「大岡さんの全活動の核心近くには、この放心がある」との発見を語った。「うたげと孤心に放心を足すことで、大岡さんのビジョンはさらに創造的な波動を加える」と強調した。用意した原稿をもとに、新たに言葉を探りながらの話は聴衆の感動を呼んだ」
生の声で取材できたことに大井さんも満足されているようでした。
吉増剛造著『我が詩的自伝』、『詩とは何か』いずれも 講談社現代新書の制作に関わられた林浩平さんも会場参加されて、刺激的な例会となりました。
(西川敏晴記)