詩人の吉増剛造さんは、1月29日の例会のための大岡信論を快く引き受けてくださり、そのために、年末からずっと大岡信の著作や詩、その周辺の詩人たちの作品にどっぷりと身を浸して準備をされました。講演が近づく1月20日から、吉増さんは大岡論をA3の紙に筆記を開始。実際に書きながら大岡信の魂と共鳴しようと、つぶやくような文章が綴られていきました。
当日、差し出されたテキストは、赤、黒、黄色の色彩あふれる、手書き文字ぎっしりの2枚の「大岡信論」。会場参加の方々にはカラーコピーで配布、ズーム参加の方には添付にて配信されました。吉増さんの原稿であり、原稿そのものが作品でもあります。ペンの色を変えて使うのは、筆記用具のタッチや色で感覚が刺激されるからだそうです。
大岡さんへのアプローチは、『折々のうた』や『肉眼の思想』、『うたげと孤心』や『菅原道真』さらに『悲歌と祝禱』、『詩人の設計図』……などの文章や詩に触れながら、閃くような言葉で語りつづけ、引用部分(活字のコピーが張り込んである)からは、新たな関心と分析が留処なく続きます。文中には日記のように日付が打たれ、講演当日の吉増さんは、その原稿を拡大鏡で覗き込むようにして、朗読されました。
詩人の文章が全体の4分の3を通過するところで、大岡信の「中原中也論」に差し掛かり、吉増さんは「放心」というキーワードに大きく反応、ついに大岡信と共鳴する。そこから加速度がついて大岡信論は、一気に着地に向かいました。
2023年2月に84歳となる詩人のエネルギーに圧倒されながら、その声に耳を傾けると、手書きのカラー原稿も斬新な大岡信論のことばも、まるで長編詩のように感じられて来るのでした。
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第25回大岡信研究会は、久しぶりにズームと会場参加の両立という試みで行いました。吉増さんの講演は、原稿作品を朗読する形で、会場参加者には、その熱量がたっぷり伝わる感動的な講演となりました。しかし、同作品を画面に映し出す方法をとったズームでは、朗読を画面上で追うのは、必ずしも容易でなかったことは否めません。今後、ズームと会場の両立を継続していく上で、さら技術的な改良を加え、より良い聴取環境を作っていこうと考えています。(西川敏晴記)