第二十八回大岡信研究会の報告(講師:四元康祐氏)
第二十八回大岡信研究会は、1月28日(日)、今回もズームと会場(代官山ヒルサイドサロン)の二元方式で、講師に詩人の四元康祐氏を迎え開催されました。同氏は、大岡信の幅広い仕事の中でも海外連詩に焦点を当て、自身の連詩経験―米国、ドイツをはじめとする長年の外国勤務時代や翻訳などで磨かれた英語力で、海外の詩人との連詩を日常的に実践している―その内容を写真や動画を駆使して具体的に生き生きと語りました。日本・中国・韓国の詩人による連詩、トルコのダムによる水没都市での連詩、コロナ禍でルーマニアの女性詩人の呼びかけで始まった世界中の詩人が参加したオンラインによる連詩、香港の大学での連詩、そして昨秋に参加したアイオワ大学での体験など、実に興味深く、また極めて喚起的な話が続きました。それぞれの連詩を実践する過程で、参加する各詩人の独自の背景や心理的環境、また実際的な場所、そして偶然も含めたさまざまな出来事などが契機となって、次々と詩的喚起力が生み出されることで、連詩が成立し続くことが具体的に感得できました。
アイオワ大学では各国からの詩人や作家が、それぞれ自分の仕事を自由にしながら、一つ屋根の下に3か月間共同生活しましたが、そこで精神の共振が生じることを語りました。それは、同氏が読んだニュージーランドの日本文学者のRoy Stars氏が心敬に関する研究で述べている-心敬にとっての連歌は、文学というより仏教的悟りへの道程Meditation in actionそのものだったと言います。座禅という孤独な作業を人々が集まって行うことで精神の共振が生じることが、連歌、連詩に通じる、そして詩を書き、読む行為そのものも禅的な精神の解放を実現するものではないか、そのことは、まさに大岡信の「うたげと孤心」に繋がるものであると語りました。
アイオワ大学では、寮の中庭に転がっていた紙コップに心を寄せた同氏のメールに、参加者たちがたちまち反応し、そうした反応が作品として纏められたエピソードなども、非常に面白く、刺激的でした。また、連詩のような詩の共同制作は、決して日本特有のものではなく、四元氏自身の体験からも、中近東やアジア、ヨーロッパなどの世界の各地に見られると語ったことも非常に印象的でした。時々、詩を朗読される四元氏の心地良い英語の響きを聞いていると、それぞれ母語の異なる詩人たちとの連詩に不可欠なコミュニケーション力を実感する思いでした。今回の大岡信研究会の参加者たちも、新しい窓が開けたような印象を持たれたことでしょう。
この講演内容は、今年末に発行される会誌「大岡信研究 第10号」に掲載されます。今回の会に参加された方はもとより、参加されなかった方も、是非ご期待ください。(越智淳子)