「折々のうた」を選ぶ BY 長谷川櫂
2015年5月31日(日)の日本経済新聞の文化欄(最終ページ)に、長谷川櫂運営委員の書いた「折々のうた」を選ぶという文章が掲載されました。
三島の大岡信ことば館で開催中の「『折々のうた』お持ちかえり展」。会場に展示されている365の詩歌から、参観者がお気に入りの十二枚のうた(掲載当時の詩歌+解説)のコピーを選んで、自分で製本できるという趣向に長谷川さんも自ら参加した。
「この展覧会は大岡さんが二十九年間、日々味わってきたにちがいない楽しさと多少の悩ましさを、参観者にお裾分けするという何とも気のきいた企画なのだ」そこで、長谷川櫂さんが選んだ365分の12篇は、
① 新しき年の齢の初春の今日降る雪のいや重け吉事 大伴家持
② 仏はいつもいませども/現ならぬぞあはれなる/人の音せぬ暁に/ほのかに夢に見え給ふ 梁塵秘抄
③ あかあかやあかあかあかやあかあかや あかあかあかやあかあかや月 明恵上人
④ あはれなりわが身のはてやあさ緑つひには野べの霞と思へば 小野小町
⑤ さまざまに品かはりたる恋をして 凡兆
浮世の果は皆小町なり 芭蕉 (歌仙より)
⑥ (覆された宝石)のやうな朝/何人か戸口にて誰かとさヽやく/それは神の誕生の日 西脇順三郎
⑦ 歌よみは下手こそよけれあめつちの動き出してたまるものかは 宿屋飯盛
⑧ 笠置シヅ子があばれ歌ふを聴きゐれば笠置シヅ子も命懸けゐる 前川佐美雄
⑨ とろりとろりとしむる目の/笹のうちよりしむりや/笠のうちよりしむりや/腰が細くなり候よ 松の葉
⑩ ゆめの世をゆめでくらしてゆだんしてろせんをみればたつた六文 木喰上人
⑪ おもしろい恋がいつしか凄く成 武玉川
⑫ 憂きことを海月に語る海鼠かな 黒柳召波
各詩篇にウイットに富んだコメントが付いて、読み応えがあります。長谷川さんは「私の選は近代よりも近世の江戸に、嘆きより笑いに傾いているかもしれない」と振り返っています。選ぶ楽しさ、鑑賞する楽しさを同時に味わえる展覧会にぜひ足を運んでください。⑪の前で佇む自分を想像するだけでもユカイ。
また、企画展のベースとなった『折々のうた 三六五日』(岩波書店)が、長らく品切れでしたが、展覧会を機に書店に並びました。(西川敏晴記)