第十二回研究会報告『古典詩歌と現代詩の対話』蜂飼耳(詩人)
平成30年5月27日(日)、明治大学で開かれた第12回の大岡信研究会は、詩人の蜂飼耳氏が講演した。学生時代に教科書で大岡の詩「春のために」(『記憶と現在』所収)に出会い、そのなかの〈しぶきをあげて廻転する金の太陽〉という詩句に強い印象を受けた蜂飼氏は、高校生のころ、同時代ライブラリーとして再刊された『うたげと孤心』に遭遇し、大岡の評論と本格的な出会いを経験する。通学途中の書店で偶然手にしたその本の、とりわけ後白河法皇と今様についてのいきいきとした大岡の文章に驚いたという。その文章は柔らかで温かく、平明であることによって、高校生の蜂飼氏に深く届くものであったと語る。
『紀貫之』など、これまで光をあてられていなかったものに光をあてようとする評論や、大岡自ら詩の実作者として、母語としての日本語の豊かな宝を古典詩歌の中にも見出していこうとする大きな仕事の反映によって、蜂飼氏の時代においては、当時大岡が「日本回帰」などと言われた時代とは異なり、古典文学は積極的に触れてゆくべきだという環境が整っていたという。これも大岡が展開した仕事の存在があってこそ、と推測する。
講演は、資料に掲載された『うたげと孤心』の文章を紹介しながら、大岡が時間や空間を超えて、まるで同じ時代にいるように後白河法皇に共鳴していく姿に触れ、対象を自分の中に一度入れてから評論していく大岡の体質について言及があった。
また、『折々のうた』については、引用されている詩句だけではなく、並べ方も評釈そのものも大岡の「詩」であるとし、『折々のうた』そのものが「詩集」であると近年考えているという興味深いお話もあった。
「水底吹笛」を朗読して講演を終えたのち、大岡の作品と古典詩歌の関連について問う大学生からの質問にも、大学で教えている立場からの的確なアドバイスで答える様子に、参加者は感心し、感銘した研究会となった。(渡辺竜樹:大岡信研究会会員)