第二回大岡信研究会レポート
第二回大岡研究会は、NHK中国語講座の講師としても知られる東京工科大学教授の陳淑梅氏による講演でした。演題は「大岡信 その現代中国における受容」。氏は、1986年に中国から日本に留学し、明治大学大学院で大岡信と出会い、学生として5年間にわたって授業を受けてきました。
講演の中で氏は、院生時代を振り返って、恩師・大岡信との日々をユーモアを交えて紹介しました。学生にいつでも食事を奢るような気前のいい人であったこと。話の導入にいつも妻や子のことに触れる家族愛の深い人であったこと。また、立原道造の詩を朗読しながら目頭を熱くする涙もろい人であったことなど、様々なエピソードから、魅力あふれる「先生」としての大岡信が伝わってきました。
大岡信の作品は、中国社会科学院が出している中国で最も権威ある季刊誌『世界文学』に収録されるなど、詩や散文が多く翻訳されているとのことです。最近では、世界で最も美しい詩が集められた『世界最美的詩歌』や『世間最美的情詩』などの本にも詩が取り上げられているそうです。
氏は、漢詩が「主体と客体との区別・対比がはじめから明確に存在している詩」(『日本の詩歌』大岡信)であり、日本の和歌が「具体的な事物や事件の精細な描写ではなく、それらと出会った時の、作者の感動の簡潔な表現」(同前)であることを引きながら、大岡信の詩作品(「春のために」「さわる」)を例にとって、中国語に翻訳するときの難しさを語りました。
講演の始まる前、運営委員の芥川喜好氏が語ったように、「大岡信という人の、異なる文化を背負ってきた人間に対する深く幅広い受け入れの構えに、すっぽりと嵌った」とでもいえる陳淑梅氏の、まさしく「先生」との最高の出会いを果たした喜びと、大岡作品と日本語への愛情に満ちた講演に、会場はあたたかな雰囲気に包まれました。
渡辺竜樹(大岡信研究会会員)