お知らせ:岩波文庫「自選 大岡信詩集」発行

IMG_0815岩波文庫「自選 大岡信詩集」が発行されました。(岩波文庫 緑202-1)
決定版詩集として初期詩編から最新作品まで125篇が掲載されています。レイアウトや文字も読みやすく、大岡信の詩に改めて出会える格好の機会です。
是非、お読み下さい。三浦雅士氏による解説「ある愛の果実」と大岡信の略年譜が新たにまとめられています。

『アメリカ草枕』の中の短歌

◆大江山酒呑の棲める岩屋かもそこへ小栗鼠がちょこちょことくる
◆ばたばたと赤岩わたる虫のあり名をシ知らざればバッタにしておく
◆目で測る高さなどあてにならねども岩の背丈は一キロ以上
◆大寺院 沈没する船 裁判所 なみいる岩に赤鬼もをおり

 大岡信が1978年のアメリカ旅行中、大自然が広がるアリゾナからユタ州へ北上した時に詠んだ短歌である。グランド・キャニオンをはじめ、ブライス・キャニオン、アーチーズ、ザイオンなど国立公園のもっとも密集していると地域をドライブした。あまりにも大きなスケールに圧倒され、写真やメモを放棄して、湧き出た表現手段として三十数年ぶりに短歌を思い出したのだ。ざっくばらんな言葉で即興的に詠み続け、三日間で八十七首の五七五七七を書き付けたという。

◆アスペンはいてふに似たれ葉は硬しからから鳴ればこころおどろく
◆キャニオンの薄暮はるかの谷底にコロラド河はしづくと沈む
◆植物を 緑のものと思ふなよ 緑は灰の欠けたるものぞ
◆「君の立つ岩の下なる湿気を吸ひ しつかりと生きるちび松ぞこれは」
*「君の・・・」はブライスキャニオンの説明版をそのまま歌にしたもの

◆Never seen such a beautiful sight といふ唄を聴きつつ荒地にはひる

まるでカメラのシャッターを切るように、眼前の、あるいは心象の風景を短歌形式で記録した。リズミカルに、即興的に、ユーモラスに・・・。その軽がるとした詠みぶりは、後に*歌会始の召人をつとめ詠んだ短歌にも繋がっている。

◆いとけなき日のマドンナの幸ちゃんも孫三たりとぞeメイル来る

* 2004年歌会始の題は、「幸」。
(西川敏晴記=研究会会長)

詩の鑑賞5

harunotameni

『記憶と現在』1956年、書肆ユリイカ

【コメント】
 大岡信の詩は人を励ましたり、慰めたりしない。当然、谷川俊太郎や茨木のり子や吉野弘の詩と違う読み方が求められるということだろう。
 むしろ世界の新生―破壊と創造。その典型が「春のために」だろう。エリオットから出発して、あとはひらめきに次ぐひらめき。行を改め、一行の空白を飛び越えるたびに起こる世界の破壊と創造。
 大岡信の詩を読むとき、この世でもっとも詩的なものを目の前にしている。(長谷川櫂 俳人、大岡信研究会運営委員)

詩の鑑賞4

sakebebamiyo

『大岡信詩集(総合詩集)「わが夜のいきものたち」』1968年、思潮社
【コメント】
おもしろいな。この詩は大岡信の詩のなかでも多くのひとが語る詩であるけれど、「瀬田の唐橋 雪駄のからかさ」が、なんで「いつも 東京は くもり」なのかは分からなくて、そのつながることない分割線の国境(くにざかい)を行ったり来たりしている大岡信が実に楽しいのだ。だから、大岡信の詩集で一番好きなのは、「旅みやげ にしひがし」で、「中国上海市 虹口区呉淞路義豊里 地番は今でも322里」と書いてあるだけで、詩人の立ちつくす姿が見える。(土屋恵一郎 大岡信研究会賛助会員、明治大学教授)

あなたが選ぶ大岡信の詩・トップ10(2004年大岡信フォーラムにて)

年末に掃除をしていたら、かつて7年の間開催していた「大岡フォーラム」の2004年の年末の例会の記録メモが出てきました。毎年、12月のフォーラムでは参加者と大岡先生とが直接会話や質問をして、時には連句(大岡信選)体験などのイベントを行いました。
2004年の12月には、「私が好きな大岡信の詩」を各自が話そうということで、事前にアンケートを取りました。
◆私が好きな大岡信の詩
(1) 石と彫刻家
(2) 延時さんの上海
(3) 彼女の薫る肉体
(4) げに懐かしい曇天
(5) サキの沼津
(6) さわる
(7) 青春
(8) 高井戸
(9) ながめ(藤原俊成の歌による七つの詩)
(10)母を喪ふ
*以下、春のために、虫の夢、倫敦懸崖、詩人の死、木馬・・・

たとえば、大佐とわたし、マリリン、地名論などの通常ベスト10に入る人気タイトルが出ていないところが、フォーラム参加者のある特徴が出ているのではないかと思われます。当日、「なぜ私がこの詩が好きか」の参加者のスピーチに、大岡先生が楽しそうに耳を傾けられて、質問にも丁寧に答えられていました。(西川敏晴記)